五百旗頭真氏が復興構想会議議長にベスト・チョイスだと思う6つの理由

 東日本大震災からの復興を構想するための会議の新設が決まりました。

 菅内閣は11日の持ち回り閣議で、有識者東日本大震災からの復興像を描いてもらうため、「東日本大震災復興構想会議」の新設を決めた。復興構想会議の議長は五百旗頭真(いおきべ・まこと)防衛大学校長が務め、6月をめどに第1次提言をまとめる。
 菅直人首相はこの日、五百旗頭氏を首相官邸に招いて約50分間会談。「いい青写真を示してもらいたい。国民が期待している」と述べた。枝野幸男官房長官は記者会見で「被災者の皆さんが希望を持ち、国民全体で共有できる大きなビジョンを描くことが極めて重要だ」と、期待を語った。
 ・朝日新聞ウェブサイト、2011年4月11日22時42分、より
  http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104110494.html


 私は、この復興構想会議議長に五百旗頭氏をあてる人事は、今考えられるなかでは最良の選択だと思います。その理由は6つあります。


1.超党派の立場 
 五百旗頭氏は、2006年から現在にいたるまで防衛大学の校長を務めています。氏を自衛隊の幹部候補を要請するための士官学校の校長となるように要請したのは当時の小泉純一郎首相でした。この経歴をだけをみると氏は自民党支持の右派のようにみえるかもしれません。けれども、他方で氏は小泉首相靖国神社参拝には否定的で、田母神敏雄・航空幕僚長が2008年に発表した論文に対してもシビリアン・コントロールを侵すものと批判しています。氏の政治的な立場は「右」や「左」などと単純に割り切れるものではなく、その彼を菅首相が選んだのは超党派的な人事だと思います。
 ・防大学長挨拶
  http://www.mod.go.jp/nda/

2.政府系有識者会議での実績
 五百旗頭氏には自民党政権のいくつもの有識者会議に参加し、提言を取りまとめてきた実績があります。小渕政権の「21世紀日本構想」懇談会、小泉首相の「安全保障と防衛力に関する懇談会」、福田首相の「外交政策勉強会」、外務省の「新日中友好21世紀委員会」、「防衛省改革会議」などです。氏は日本の行政機構の仕組みを間近に観察し、有識者会議の役割を理解した上で、会議を主宰する機会を積み重ねてきました。氏はこの種の会議において初心者ではありません。 
 ・21世紀日本構想懇談会
  http://www.kantei.go.jp/jp/21century/index.html
 ・防衛相改革会議
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/bouei/index.html

3.被災者としての経験
 五百旗頭氏は自身が1995年の阪神大震災で被災したという経験があります。当時、氏は神戸大学教授の職にあり、自宅は西宮市にありました。氏のゼミからは一人の学生が犠牲になっています。また氏は、2006年に設立されたシンクタンクひょうご震災記念21世紀研究機構において、震災当時、行政、消防、自衛隊などで責任者であった人たちから聞き取りを行い、オーラルヒストリーとしてまとめています。氏は大規模災害の経験者であり、その体験を後世に伝え残す仕事にも取り組んできました。
 ・「阪神大震災から三年 いま、後輩たちに伝えたいこと」神戸大学ニュースネット
  http://home.kobe-u.com/top/newsnet/sinsai/tokusyu98.html
 ・『オーラルヒストリーの記録に基づく災害時対応の教訓の活用化報告書』(pdf)
  www.dri.ne.jp/updata/ouraru_5003.pdf

4.研究者としての名声
 五百旗頭氏は多数の弟子を育てた名伯楽にして、学界での声望高い研究者です。氏は京都大学猪木正道(後の第3代防大校長)や高坂正堯らの薫陶を受け、研究者としての道を歩み始めました。氏の門下からはロバート・エルドリッジ・在沖縄・米国海兵隊外交政策部長、服部龍二・中大准教授、高原秀介・京産大准教授、簑原俊洋・神大教授、村井良太・駒大准教授、楠綾子・関学大准教授といった錚々たるる歴史家を多数輩出しています。氏が編集した『戦後日本外交史』(有斐閣)は第3版を重ね、この分野における標準書として地位を築いています。1998年から2002年までは日本政治学会の理事長も務めました。

5.広報者としての能力
 五百旗頭氏は学界の外部に向けても積極的に情報発信をしてきました。氏は1996年から現在にいたるまで15年にわたって毎日新聞で定期的に書評を発表してきました(『歴史としての現代日本五百旗頭真書評集成』千倉書房、2008年)。氏の最新の書評が1月23日付の河田恵昭『津波災害』(岩波新書)評であったことは、彼がどのような役割意識のもとメディアに関わってきたのか、を端的に表していると思います(河田氏もまた本会議のメンバーです)。また氏はしばしばNHKの『その時歴史は動いた』や『視点・論点』などの番組に出演して、現代史の転換点や国際情勢について一般向けの解説を行ってきました。3月末からはNHK教育の新番組『さかのぼり日本史』で戦後日本の来し方について語っています。柔らかみのある氏の神戸言葉は硬派の話題を扱ってもひとを惹きつけるような魅力をもっています。
 ・毎日新聞・『津波災害』書評
  http://mainichi.jp/enta/book/hondana/archive/news/2011/01/20110123ddm015070023000c.html
 ・NHKさかのぼり日本史
  http://www.nhk.or.jp/sakanobori/

6.歴史家としての見識
 五百旗頭氏の真骨頂は歴史家としての見識に表れています。『米国の日本占領政策―戦後日本の設計図』(中央公論社、1985年)は太平洋戦争中に準備されていたアメリカによる日本占領計画を実証的に解明した名著であり、歴史学と国際関係論のそう多くない幸福な結婚の一例です。また、『占領期―首相たちの新日本』(読売新聞社、1997年)では、敗戦後の混乱のなかにあって時の宰相たちがいかに行動したか、危機の時代のリーダーシップのあり方が冷徹に評価されています。これら二つの著作の内容を併せて発表された『日本の近代6 戦争・占領・講和―1941-1955』(中央公論新社、2001年)を今読むと、政治指導者はどうあるべきか、成功する復興計画とはどのようなものか、グランドデザインと利益集団の関係、あげくは会議での議論の落としどころまで、この時のために書かれたのではないかと錯覚するほどです。

 もちろん個々の基準においては五百旗頭真氏以上のものをもつ方はいくらでもいるでしょう。けれども、立場、実績、経験、名声、能力、見識などすべての点を満足できる人物は他のどこを探してもいないと思います。以上が、氏が復興構想会議議長にベスト・チョイスだと思う私が考える理由です。

歴史としての現代日本 五百旗頭真書評集成

歴史としての現代日本 五百旗頭真書評集成

戦後日本外交史 第3版 (有斐閣アルマ)

戦後日本外交史 第3版 (有斐閣アルマ)

占領期 首相たちの新日本 (講談社学術文庫)

占領期 首相たちの新日本 (講談社学術文庫)

日本の近代 6 戦争・占領・講和―1941?1955

日本の近代 6 戦争・占領・講和―1941?1955