梅田望夫『ウェブ進化論』

グーグル的世界観の啓蒙書とでもいうべき本.先月来,はてなを使って6年ぶりの個人サイトを始めたわけだが,その空白期間を実感.2,3感想をメモ.

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

グーグルの個性は,インターネットは民主的であり,実社会はその構造に倣うべきだと考える点にあると著者はいう.ネットには不特定多数の参加を促すようなWeb2.0(不特定多数を参加させ,創造性を発揮させる技術.Wikiなど)のような技術があり,また不特定多数に富が行き届くようなロングテール・ビジネス(小さな需要も捕捉し,細かな欲望に応えようとする「塵も積もれば山となる」式商売.アマゾンなど)がある.では,こうした不特定多数の参加は衆愚政治に陥らないだろうか.この疑問に対して著者はその不安は杞憂であると答える.ネットにおける情報や意志決定は完璧ではないが,グッドイナフ(そこそこ)ではある.また「衆愚政治」なる言葉で思考停止すべきでないという.「不特定多数無限大の良質な部分にテクノロジーを組み合わせることで,その混沌をいい方向へ変えていけるはずという思想を,この『力の芽』は内包」(p.207)しているからだ.だから「『次の10年』は,『群衆の叡智』というスロウィッキー仮説をめぐってネット上での試行錯誤が活発に行われる」(p.206)べきである,と.
(以下感想)
・SF的な未来を語っているわりには実はたった10年先の話だったりで,そこが一番衝撃的.
・試行錯誤それ自体は悪いことじゃないけど,その錯誤の犠牲があまりに大きいとしたら(例えば戦争とか),という疑問もあり.デモクラシーは外交には一番不向きな政治だとトクヴィルは言ったけど,大きな犠牲を払ってもその価値のある進歩が得られる,という考え方だとしたら,著者のいう「神の視点」はなんと非人間的なものか.
・途上国の多くが植民地化された経験をもつわけだが,かつてそれは低開発や貧富の格差,民族対立の原因として負の遺産視されることが多かった.けれども,近年では香港やシンガポールはもとより,インドや南アフリカなどで英語が話せる利点をいかして世界市場で活躍する人材が多く輩出されるようになっている.チープ革命(無料に近い低コストで膨大な情報と高度な技術が利用できるようになること)とアドセンス(サイト別に自動的に最適な広告を出す仕組み)はそうした帝国の遺産の価値をさらに高めることになるかもしれない.旧宗主国イギリスではニール・ファーガソンISBN:0141007540歴史家が帝国支配は従属地域の人々を総体として幸せにしたと断じているが,将来,旧植民地の方でもそうしたリビジョンが進むかも.さて,日本の場合はどうか.