中国系移民のトレンド

senzan2006-09-12

 温市に中国系が多いことは先日来繰り返していることだけど,ここで近代における中国系移民のトレンドについてのヘンリー・ユーの議論を参考までに書いておきたい(この摘要は正確でないかもしれません).移民史は専門ではないので,この議論がどの程度実証的な検討に耐えうるものなのか分からないけど,個人的にはとても面白かったんで(今日の画像はメインの図書館です).
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 ユーの議論のポイントは中国系移民のトレンドを環太平洋地域の文脈に置いた上で,中国本土,東南アジア,白人植民地(合衆国,カナダ,オーストラリア,ニュージーランド)の三角関係のダイナミズムを鮮明に描き出しているところにある.彼は近代の中国系移民の歴史を三つの時期に分ける.まず1850年代から80年代にかけて北米ではゴールドラッシュや鉄道建設のために中国人労働者が大量に移動した.他方同時期の東南アジアでもヨーロッパ系の植民地支配者の勧奨もあって,中国系商人が地域間の交易を担う存在として各地へ流入してきた.けれども,1890年代から1930年代にかけて白人植民地では中国系,日本系の移民の排斥が盛んになる.ここで注目すべきは,同時期の合衆国で白人労働者の地位が向上し,民主化が進んだことである.ここに民主化と排除のダイナミズムを見ることができる.その後の1930年代から90年代までの時期は第二次大戦,冷戦の影響が移民のトレンドにも及んだ時代である.第二次大戦と冷戦の時代には反人種主義のレトリックによって,白人植民地では黒人の地位向上とともにアジア系排斥の法律が撤廃されたが,他方の東南アジアでは植民地から解放後の国民建設の過程で中国系が異分子として排除された.いずれもポスト・コロニアルなイデオロギーの結果といえる.また,この時期の東南アジアの国民建設がその前の時代に白人植民地が経験したものを反復していることも重要である.冷戦末期から今日にかけて裕福な中国系移民が本土や東南アジアからアメリカやカナダ,オーストラリアに移動してくる背景にはこうした歴史的な文脈とトレンドを指摘することができる(Henry Yu, Then and Now: Trans-Pacific Ethnic Chinese Migrations in Historical Context, 2006).