JETプログラム

イギリスの大学新卒者が最も多く就職するところは? 答えは日本の公立校である。日本政府はJETプログラムを通してここ10年つづけて700人を超えるイギリスの大卒者を地方の公立中・高校で採用している。現在、30代前半よりも若い世代で、地方の公立校出身者なら覚えているひとは多いのではないだろうか。ある日、突然、若い英語ネイディヴの外国人が日本人の教師と一緒に英語の授業しにやってくるようになってきた日のことを。

JETプログラムは今年20周年を迎える政府の外国青年招致事業のことである。現在は英語圏の国を中心に世界44カ国から5000人を超える若者が日本人に英語その他の言葉を教えるためにやってきている。これらの国には数は多くないがロシアやパキスタン、中国や韓国も含まれている。彼らは1年契約で地方の中学校や高校、市役所などで働きながら、日本人にまじって生活する。この事業の目的は「国際化」である。ただし、その内容は所轄する三つの官庁によってさまざまである。文科省にとってJETは、首都圏の私学のようにはネイティヴ話者の採用が容易ではない、地方の公立校における英語教育の向上をはかるためのものだった。総務省(旧自治省)にとっては、外国人といえば在日コリアンとモルモンの伝道者くらいしかいない地方で、庶民が外国人と日常的に出会う場面を作るためだった。外務省にとっては、移民や留学、植民地支配によって文化的な相互理解のネットワークがある諸外国と違って、均質で孤立した日本の社会や文化に理解のある知日派を諸外国に育成するためだった。かつて外交官や日本研究者といえば宣教師の子弟や戦争で動員された軍人・軍属と相場が決まっていたが、近年ではアメリカの国務省、大学でもJET世代が台頭しつつあるという。このプログラムがどの程度そうした目的を達成しているかはもう少し長期的な調査が必要だろう。けれども、少なくとも短期的には、JETプログラムからの脱落者が例年1%未満であるという事実は、その成功を意味しているとみてよいだろう。

カナダにいたころバスの車内でJETの募集広告をよく目にした。学生ユニオンで開かれていた就職セミナーをのぞいたときも、「駅前留学」で有名な日本の英会話学校のブースの前には長蛇の列ができていた。英会話の先生を日本でやることがそれほどまでに人気だということを知って驚いた。中学生のとき、まわりにそそのかされたクラスのバカがJETできていたALTのイギリス人男性教師に浣腸をして、キレさせるという出来事があった。そうした田舎の中学生の野蛮さにもめげず、日本の「国際化」は進んでいる。

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