武富健治『鈴木先生』(2006年〜)

 中学校は百鬼夜行。このマンガの感想を一言でいうとそうなる。
 本書は首都圏のある公立中学校で二年生を受けもつ鈴木先生が、生徒たちが次々にひきおこすトラブルにどのように向き合い、解決しようとしたのか、そのスリリングでファニーな展開を描いたものである。本書が示す中学校世界は皮肉な意味でSF的ですらあるが、ある初期設定から論理的に導き出される世界を思考実験する試みであるという意味でなら、正しい意味でもSF的である。
 個人的に魅力に感じたというか、ある年齢の子どもに対する接し方としていいなと思ったのは、生徒に対してきちんと言葉を尽くして話しかけようとする鈴木先生の姿勢である。それは、話せば分かる的なオプティミズムでもなく、垂直的な関係から発せられる説教でもない(そのように見えかねないけれども)、一人前として扱うことで一人前であることを促す対話術のようなものである。
 それにしてもこの世界に登場するキャラクターのなんと実在感のあることか。竹地や河辺、入江らが読者に与える既視感にはあらがいがたいものがある。鈴木先生もその一人である。彼の小川萌えや際限のない妄想を薄気味悪く思うひとには、その長広舌は偽善的に聞こえるかもしれない。けれども、本書を読むと、そういうのも込みで彼もまたこの世界を間違いなく構成する要素の一つとしてあることがよく分かる。
 第4巻カバーの略歴欄にはすでにラストエピソードまでのおおまかなストーリーができているとあるが、一日千秋の思いである。

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)