コロンブス交換

カナダ史をやっていてかならず言及されるのが「コロンブス交換」と呼ばれる現象です。
日本史では「ザビエル交換」や「ペリー交換」と呼ばれるほどのテーマはありません。
しかし、カナダを含む西半球の歴史において、旧大陸から何がもたらされ、新大陸から何が持ち出されたのか、またその結果それぞれの社会で何が起きたのか、は重要な論点です。
コロンブス交換がなければ、例えばイタリア料理にトマトはなく、フランス人は煙草を吸わず、スイス製のチョコレートはなかったかもしれません。もちろんこの現象は食べ物に限った話ではありません。文化や技術、家畜や植物、それから病気など、多種多様なものが新旧二つの大陸のあいだで相互的に交換されました。
注目すべきは、コロンブス交換における取引では、新大陸の方が圧倒的な「赤字」だっということです。牛、馬、山羊、豚、羊の5大家畜はすべて旧大陸から新大陸への輸出品でした。
病気に関しても、新大陸の輸入超でした。梅毒はコロンブスたちがヨーロッパに持ち帰った感染症としてよく知られています。けれども、それよりもずっと多くの病気がヨーロッパ人からアメリカの先住民たちに感染させられました。例えばコレラ、インフルエンザ、マラリア、ペスト、天然痘結核などです。この結果、ヨーロッパ発の感染症に免疫もなく、遺伝的な抵抗力ももたない先住民たちはまたたくまに命を落としていきました。
ヨーロッパ系の移民の中には意図的に感染症を兵器として先住民を殺したケースもありました。天然痘で汚染された毛布を先住民に与えることで感染を広げたそうです。映画『レッドクリフ2』でも曹操感染症を兵器として使用するシーンがありました。少数のヨーロッパ人が数に勝るアメリカ先住民を征服できたのには、こうした(意図的あるいは非意図的な)兵器が彼らに味方しからだと言います。
それでは、なぜヨーロッパ人の方が病気に強く、先住民の方が病気に弱かったのでしょうか。
ジャレド・ダイアモンドによると、それは旧大陸の人間の方が多様な家畜と接触する機会がすっとたくさんあったからだと説明しています。多くの感染症はもともと動物に由来しています。旧大陸には動物と頻繁に接触する機会、つまり家畜がたくさんありました。旧大陸の人間は長期にわたって家畜と接触してきた結果、病気に対する遺伝的な抵抗力や個人的な免疫を獲得したと考えられています。
これがアメリカ史にコロンブス交換があって、日本史にザビエル交換がない理由です。

The Columbian Exchange: Biological and Cultural Consequences of 1492

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