Katharyne Mitchell,"Crossing the Neoliberal Line", 2004

最近のエントリーと関係する面白い本を読んだので、個人的に関心をもった部分を書きとめておく。著者はワシントン州立大学地理学科の教授である。

Crossing the Neoliberal Line: Pacific Rim Migration and the Metropolis (Place, Culture, and Politics)

Crossing the Neoliberal Line: Pacific Rim Migration and the Metropolis (Place, Culture, and Politics)

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 本書は1980年代から90年代にかけてのバンクーバーにおける都市空間の変遷をグローバルな資本と人間の移動とリベラリズムをめぐる言説闘争との関連で分析したものである。
 80年代後半に李嘉誠に代表される香港資本がダウンタウン再開発に参入したことは各方面に波紋を呼んだ。住民たちはコミュニティを守ろうとして草の根的な反対運動を組織した。これに対して開発業者と移民たちはそうした反対運動における「人種主義的」なトーンを指摘し、批判した。この状況において政府は海外からの投資を歓迎し、友好と文化交流を強調する態度をとった。ここに見られるのは、反人種主義とネオリベラリズムの奇妙な結合である。70年代に中華街の再開発に反対し、中国系移民を擁護した人種横断的な政治運動家たちはここにきてジレンマに陥った。この結果、市政をより平等で民主的な意思決定にするためにコミュニティ・ベースの政治運動を展開した進歩派の連合は、この問題に際して分裂することになる。こうして著者は、領域的なネイションに埋め込まれ、よき国民形成を志向するリベラルな多文化主義が、そこに潜む排除の論理を告発し、資本主義のグローバルなネットワークの結節点として市民を再定義するネオリベラルな多文化主義の前に、敗北していくさまを叙述する。20世紀初頭からの古い家屋に住む住民は立ち退きを迫られ、代わりに豪華ではあるが怪物的ともいえる巨大なマンションが立ち並ぶ都市空間がこうして形成された。