荒川のハザード・マップ

 荒川河川事務所のサイトで洪水時のハザード・マップを見ることができます。これが非常によくできていて、関心のあるひとには一見の価値があると思います。

http://itgis.ara.go.jp/arahzd/index.html
http://itgis.ara.go.jp/arahzd/app/map/main.jsp
(※左側の「浸水想定地域図」をチェックすると色分けされた浸水状況の図が表示されます)
 このうちふたつめのハザード・マップは、グーグル提供の地図に河川事務所が作成した想定浸水地域を重ね合わせたもので、50cm刻みで浸水時の水位が色分け表示されており、縮尺も五段階で変化させることができます。これよって洪水時に予想される自宅付近の様子を知ることができたのは、何よりの収穫でした。
 もう一つこの地図で面白かったのは、関東南部における台地と低地の広がり方です。このハザード・マップを見ると、かりに熊谷・行田などの荒川上流域で洪水が起きた場合、出水は大宮大地を回り込むようなかたちで東へのびてから、南に広がることが分かります。熊谷の洪水が30キロ以上離れた春日部、越谷といった街にまで浸水をもたらすというわけです。見方を変えると、洪水時、大宮台地は海に浮かぶ島のようなかたで孤絶します。実際、縄文海進の時代には大宮台地は東京湾に浮かぶ島だったようです。荒川に注目するならば、武蔵野台地(埼玉西部と東京都が乗っている)と大宮台地(さいたま市から桶川、北本あたりが乗っている)のあいだを走る海峡、あるいは渓谷が、荒川なのだと見ることもできます。
 この地図はさらに中山道と宿場街がハザード・マップ的な危険地域を避けて発展してきたことも教えてくれます。江戸と京都を長野周りで結ぶ中山道は、参勤交代のあった江戸時代においては、川留めのある東海道に比べて安全でスケジュール管理が容易なルートであったといいます。この中山道は、浦和、大宮、桶川、鴻巣といった大宮台地上の安全地帯を結んで伸びています。逆に、現在、レッズのホームがある埼玉スタジアムは荒川からは遠く離れているにもかかわらず、その氾濫水によって水没する可能性があることが分かります。広大な土地が近年まで開発されずに残されていたのにはそれなり理由があったということなのでしょう。
 ハザード・マップが有用であるような事態はけっして望ましいものではありません。けれども、地図好きには、いろいろ使い勝手のある道具であるように思います。