日本の農家

senzan2007-12-25

 先月の帰省時に子どもに農機具を触らせ、簡単な作業をやらせてみました。実家もまた日本の農家の例にもれず集約度の高い農業を営んでいて、一通りの機械・道具が揃っています。
・トラクター 子どもがまず真っ先に体験したのがトラクターによる耕地です。トラクターとは、作物の播種・植え付けに備えて、耕地の土壌を掘り返し膨軟にするための、人が乗って運転する耕耘機のことです。昨年も運転したことがありますが、今回は一層ハンドルさばきが様になっていました。帰宅後には意味もよく分からないまま「パワーステアリングだからハンドルが切りやすいのだ」と母親に講釈していました。彼は父方、母方ともに車好き祖父をもっているので、四輪車好きは折り紙付きです。
 ・コンバイン 次ぎに操縦したのがコンバインです。コンバインとは、穀物の刈り取り、脱穀をするための、人が乗って運転する収穫機のことです。トラクターと違って、ハンドではなく操縦桿様のもので運転すること、タイヤではなくゴム製のキャタピラで走行します。トラクターはブルドーザーなどの建設機器の方に近いのに対して、いくつもの工程を含むコンバインはむしろ移動式の工場といった趣があり、その精妙さに子どもは目を瞠っていました。
 ・鍬 それから鍬(くわ)をもって田んぼに行き、畝と溝を作りました。畝立ては機械で行うこともできますが、トラクターが入らない狭い土地や人の手で済む程度であれば、鍬を使って行います。畝立てによって柔らかい土地を確保し、水はけをよくすることができるので、作物がよく実るといいます。鍬を振り上げ、掘り下げしながら後進していく身体所作はリズミカルで、舞踏的なものですが、身長よりも大きな鍬を持たされた子どもの姿はむしろやじろべえのように見えました。
 ・ショベル 一輪車 熊手 鍬以外にもいくつかの農器具を使いました。一輪車とは工事現場などで土砂や機材を運ぶ際に利用する手押しの車のことで、ネコ車ともいうようです(ネコ鍋のようにネコで車が一杯なわけではない)。これに子どもと甥の二人を乗せてあぜみちを走ると、すぐにばてました。ショベル(スコップ)で畑を掘り返したり、熊手で枯れた下草を集めたり、石油を使う以前の機械化されていない農業がどれだけ手がかかるものだったか、あらためて実感されます。
 ・大根の収穫 さまざまな農機具に触れた後で、そうやって作った野菜を収穫してみました。その夜はお鍋の予定だったので必要な分だけ大根を抜いていきます。食べる分だけその都度調達してみることで、冷蔵庫がなかった時代には畑がそのまま野菜の鮮度を保つ工夫であったことに気づかされます。大根は垂直に引き抜かないと力がかからないで、ちょっとしたこつがいります。リーチの短い子どもは横向きに抜いてしまうので、大根の葉だけをちぎったり、しりもちをついたりしていました。なにげない動作でも習熟が必要な世界です。
 ・柿の木登り 田んぼのそばにある柿の木にも登ってみました。子どもは普遍的に木登りが好きです。こつをのみこむとすいすい上がっていくので親をはらはらさせます。ちなみに、小学生の時分にこの木から下の川まで落ちたことがあります。幸い怪我一つせずに済んだのですが、川には岩がごろごろあったので打ち所が悪ければ重傷を負っていたかもしれません。これまでの人生の中で一番死に近づいた時でした。
 最近の原油高のせいで、輸入農作物が値上がりしています。巨大な人口を抱える諸国が経済発展するなか、代替エネルギーが実用化されない限り、資源の相対的な高値は今後もつづくでしょう。たしかに今回子どもが体験したことは、所詮、タモリ・クラブ的な企画でしかないかもしれません。けれども、それがままごとみないなものであったとしても、食糧自給率が低いこの国で食べ物がどのように生産されているのか、またそれがどのように受け継がれてきたのか、その一端に触れることは悪いことでないように思います。