選挙とマイケル・ムーアの意見

 日本では総選挙をやるやらないで政界はやきもきしているようだが、同じく太平洋沿岸のカナダ、ニュージーランドアメリカでも近く選挙が行われる。ニュージーランドは11月8日、アメリカは11月4日、カナダは10月14日に選挙が予定されている。
 カナダでは2006年以来保守党のハーパー政権が続いている。今回ハーパーは少数与党による不安定な政権運営を打破するために議会を解散した。議会の定数は308人だが、その大半はオンタリオ(106)、ケベック(75)、ブリティッシュ・コロンビア(36)の3州に集中している(約70%)。したがって大票田のこれら3州がとくに重要なのだけれど、そのうちケベック州議席の大半は地域政党のブロック・ケベコワが獲っていってしまう(75議席中51議席)。カナダは小選挙区制なので基本的には自由党と保守党の二大政党制だけれども、こうした事情から第3党のブロック・ケベコワや第4党の新民主党の支持を得なければ政権が安定しない。新民主党(NDP)は左翼政党だが、カナダではつねに一定の勢力を維持してきた。国民健康保険の基礎を築いたのはトミー・ダグラスというNDP(当時CCF)の政治家だったし、現在でもマニトバ州議会の与党はNDPである。
 今でもトミー・ダグラスは最も尊敬されるカナダ人の一人である。2004年に行われたCBCの投票では1位だった。彼のことはマイケル・ムーア監督の映画『シッコ』でも紹介されている。『シッコ』はアメリカにおける医療保険の欠陥を告発したドキュメンタリー映画だ。アメリカには国民健康保険は存在せず、無保険者が5000万人もいるという。保険がないので病気や怪我をしても治療を受けられない。病院には行けないので自分で治すか、死ぬしかない。とはいえ『シッコ』のテーマは彼らではない。私的な保険に加入していても、あれやこれやの難癖をつけて保険金を支払わない保険会社と契約者のあいあだの葛藤が映画の中心である。国境を越えてわざわざカナダにまで通院しているアメリカ人女性も登場する。これだけ世界の富を占めながら、なぜアメリカには公的な健康保険がないのか? これに対してムーアは市場経済が強すぎて、相互扶助の意識が分断されているからだという。
 リーマン・ブラザーズの破綻後の金融危機に直面して、アメリカ政府もいよいよ公的資金による金融機関の救済を検討するようになった。これに対してマイケル・ムーアは国民の税金を投入せずに、金持ちは自分たちでなんとかしろ、と突き放している。

 さて私の救済プランを提唱したいと思います。下記の私の提案は「金持ちは自分のプラチナの踏み台に乗って自分を引っ張り上げるべき」という単純明快な考えから自然に導かれるものです。
 金持ちさん、済まないがこれはお前さん達がいやと言うほど我々の頭に叩き込んだものだよ。タダ飯ハ食ワセナイ…。生活保護で生きる人達を憎むようにし向けてくれて有難う。だから我々からお前さん達に施しは出来ないのだよ。

(中略)
10.【民衆の「国民銀行」を作ろう】
 どうしても1兆ドルを印刷するとしたら、それは一握りの大金持ちに与えるのではなく我々自身に与えようではないか。フレディーとファニー(2大政府系住宅金融会社)が我々の手に落ちた今こそ、国民の銀行を作ろうではないか。自宅の購入、小規模事業の起業、通学、癌治療、或いは次の大発明のための資金を望む全ての人に低金利の融資を行う銀行である。また、米国最大の保険会社AIGも我々の手に落ちたのだから、次の段階に進んで全ての人に医療保険を提供しよう。全国民にメディケアーだ。
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/62766010f2311eff6f9a760fbd325eba

公的な健康保険を否定するなら、銀行の公的な救済も否定すべきだ。銀行を政府が救済するなら、政府は国民健康保険を作るべきだ。でなければ筋が通らない、と。
 いずれにしても今回の金融危機と今度の選挙では、こうした素朴な疑問(あるいはポピュリズム的な世論)に対してどのような答えをだしていくのか、それがが問われることになるのでしょう。



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