エビカニクス

保育園や小学校くらいの子どもたちがはまる遊び方、言葉や振る舞いには、大人の目から見て時に狂気を感じさせるようなものがあります。
それをひしひしと感じさせる事例に「エビカニクス」という、歌って踊れる一種の体操があります。
これは子どもたちが海老と蟹になりきってエアロビクスをするというコンセプトのお遊戯で、とりわけその歌詞のシュールさに大人は絶句させられます。
作詞・作曲は増田裕子。
「アリとアリクイ」「ぐるぐるどっかーん」の里乃塚玲央クラスの破壊力です。
歌詞は引用しませんが、そのキーワードは、カニとエビは「グロテスク」な「甲殻類」だが、「日本人」は大好き、ただし「アレルギーのひと」はダメというような内容です。
これも聞きようによっては、クレヨンの「肌色」以上に、政治的に不正な感じがしなくもありません。
たしかに日本人中心の視点の歌詞ですし、食物アレルギーをもつ子どもに対する配慮も欠けているように見えるかもしれません。
けれども、私はこれはこれでいいと思います。
日本人の好物を「グロテスク」といって突き放してしまうその視線は、自分たちがもっている良い悪いの基準を諧謔味をもって相対化しているように思います。
うちの子どもが通っていた保育園には2歳年下のクラスに中国人の子どもがいました。エビもカニも中国人なら大好きさ、です。
また一昨年まで同じクラスにはインドネシア人の子どももいました。インドネシアは世界でもっとも多くのイスラム教徒が住む国です。イスラム教は食事に関するタブーが厳格であることが知られています。エビ・カニは直接のタブーにはなっていませんが、『旧約聖書』では鱗のない水中の生き物は食べてはならない、とされています。
さらに子どものクラスには食物アレルギーの子が少なくとも2人はいました。彼らの給食は他と区別されて、記名されたラップに包まれたお皿に盛らていました。
エビカニクス」の歌はこうした環境において多数派の子どもたちにそれとなく自己反省させる契機をもっているように思います。
クレヨンの「肌色」からは、子どもたちが他者について学ぶことはないでしょう。
けれども、「エビカニクス」は、押しつけがましいところはちっともないのに、ピアジェ的な発達を促すようなすぐれた作品だと思います。

シングルCD エビカニクス

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NHKいないいないばあっ ! ?旅がらす ワン太郎?

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