感染症の日加関係

senzan2009-05-10

カナダでの短期留学から帰国した高校生と引率の教員が新型インフルエンザに罹っていることが確認されました。国内初の事例だそうです。

新型インフル:国内初の感染確認 大阪の高校生2人と教諭
厚生労働省などは9日、カナダから米国経由で成田空港へ帰国した大阪府立高校の男子生徒2人と教諭1人が、新型インフルエンザに感染していたと発表した
http://mainichi.jp/select/science/swineinfluenza/news/20090509k0000e040001000c.html

今年は日加修交80年の節目であり、7月には天皇皇后もカナダを訪問します。この年にカナダを感染源としてクローズアップする日本のマスコミに対して、カナダの当局者は苦々しい思いを抱いているのではないでしょうか。実際、カナダからしてみればいつもは日本こそが感染症の輸出元ではないか、という思いもあるかもしれません。
というのは、2007年5月にカナダを修学旅行中の日本人の高校生多数が麻疹を発症したという事件がちょっとした騒ぎになったからです。ちょうど日本の大学でも麻疹の流行による休講や休校措置が話題になっていた頃です。
麻疹は北米ではほぼ根絶された病気ですが、日本ではまだ予防体制が十分とは言えません。新型インフルエンザに関する本の中でも次のような記述がありました。

麻疹は日本では未だに大きな流行が継続して起きており、麻疹の排除に成功したアメリカなどへの麻疹輸出国になっていることが国際的に批判されている。(岩崎恵美子監修『新型インフルエンザ』東海大学出版会、2008年、p.56)

実は私はこの麻疹で停留させられていた高校生と一緒の帰国便に乗り合わせました。このことは以前の日記でも触れています。
http://d.hatena.ne.jp/senzan/20070606
症状を示した彼女たちはバンクーバーの空港近くのホテルで一定期間停留、監視の措置を受けた上で、帰国の途につきました。彼女たちにはカナダ公衆衛生局の担当者が付きっきりで、成田まで同行していました。高校生の方も当局のバッグを記念品のように持参していて、その頃までにはすっかり元気に、表情も楽しげでした。
成田に到着するとすぐに術衣のような服を着た担当者が機内に乗り込んできて、彼女たちを検疫していました。ここ1,2週間テレビでよく見るあの感じです。検疫、というか、健康診断は10分くらいだったでしょうか。けれども、事情説明を受けていない他の客はボーディングブリジが接続された後も機外に出られず、ちょっといらいらしていました。
たしかに発症した高校生を隔離し、抗体反応のない生徒には予防接種をし、日本まで係官を同行させるというカナダの対応は、当時の日本社会からすれば、やや過剰に見えたかもしれません。しかし、カナダが麻疹根絶国であること、たまたまこの直前に北米中で結核菌をまき散らした旅行客の事件がトップニュースになっていたこと、そして何より新型インフルエンザに対する意識が日本よりも高かったことなどが、そうした措置の背景に指摘できるでしょう。
しかし、そうであっただけに、今回の新型インフルエンザでの対応に関してカナダの方が日本よりも鈍感であるように見えるのは、不思議な感じがします。いずれにしても、病気が最初に確認されたメキシコではなく、カナダの方から感染者が日本にやってきたというのは、その程度には日加関係が緊密であるということなのでしょう。