公教育の市場化

モンスターペアレントや学級崩壊の背景には、公教育の市場化も一因としてあるように思います。
親の高学歴化に加えて、公教育の市場化というのも、教員を取り巻く昨今の社会環境の変化の一つだと思います。
・保護者の高学歴について http://d.hatena.ne.jp/senzan/20090511
今では保護者も子どもも、教育をお金で得られるサービスの一種と見なし、教員をそうしたサービスの提供者として、値踏みするようになりました。学校教育をサービス業と考えるなら、顧客である子どもや保護者の方が偉いのは当然ですし、サービスの内容に満足しなければその提供者に注文や苦情を言うのは自然です。
もちろん学校の歴史を紐解けば、公立より私立の方が古いのが普通ですし、塾や予備校は昔からありました。しかし、公教育が市場化(あるいはその類比で理解)されるようになったのはここ10年くらいの話だと思います。
例えば東京の杉並区や墨田区では民間の塾講師が公立学校で授業を行うようになりました。これはいわゆる「ゆとり教育」に対する反発とされています。

記者の目:夜スペ活用策タブー視するな=井崎憲
 公立中の校舎での塾講師による有料授業として論争を呼んだ東京都杉並区立和田中学校の「夜スペシャル」(夜スペ)が2年目に入った。賛否両論はあるものの、公教育の不足を補うため現場や地域が考え出した塾活用策として好意的に受け止めたい。
(中略)
その後、都内では、墨田区の両国中学校が昨年度の年末年始、サピックス講師を招いて受験対策授業を実施。大阪府も今年1月から府内の小中学校の放課後学習に同社講師らを招くなど、連携は各地で始まっている。
 毎日新聞 2009年4月22日 8時02分(最終更新 4月22日 8時26分)
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20090422k0000e070004000c.html

とはいえ、「ゆとり教育」自体は公教育の市場化を目指して導入された制度でした。「公教育の市場化」という言い方に語弊があるというなら、教育の脱行政化、脱一元化とでもいうべきでしょうか。いずれにせよ、前回の学習指導要領が作成されたとき経済同友会は、学校の役割をスリム化し、その代わりに家庭や地域、そして塾などの多様な主体が教育に関与するという規制緩和論の立場から、「ゆとり教育」を支持していました(『学校から「合校」へ』1995年、など)。
こうした社会的な趨勢の中で、保護者の顧客意識は高まりました。学校と塾のあいだの一線は越えられてしまった以上、保護者が学校教員と塾講師とを比較するようになるのは当然ですし、したがって両者のあいだである種の競争が発生するのも当然のことです。
残念ながら、現場の学校教員たちはこの趨勢に対して十分に対処できていないと思います。モンスターペアレントや学級崩壊といった現象は、そうした学校教員と社会環境とのずれの表れです。
今、学校教員は何をするべきなのか、どのような意識と技能を教員は持つべきなのか。こうした教員の役割定義に関して現場レベルでも社会的にもまだコンセンサスはないように思います。