河合幹雄『日本の殺人』2009

河合幹雄の新刊『日本の殺人』(ちくま新書)を読みました。
非常に興味深いデータとエピソードが数多く紹介されていて、このテーマを考える上でまずは最低限の知識を提供してくれるものだと思います。
本書で紹介されている数字や事例には次のようなものがあります。
・日本の殺人事件は最近では毎年800件くらいである。
・その半分くらいは家庭内での殺人であり、その次に多いのがケンカ殺人である。
・やくざは脅迫が稼業であり、殺しはしないものである。
・被害者に何の落ち度もないような、通り魔殺人は年間1桁しかない。
・戦後犯罪件数は総じて減少している。
・その理由には、日本人が豊かになった、家族が同居しなくなった、酒の飲み方が変わった、やくざに厳しくなった、などが指摘される。
・凶悪事件が「相次いでいる」と報道されるとき、実際には「増加しているとは言えない」を遠回しに表現しているだけである。
・ただし、死刑を結論するのに必要以上の犯罪は裁判では省略される。そのためデータに表れない犯罪もある。
・精神異常の場合、その程度が強いと犯罪はやらない。酩酊の度合いが強いと動けないのと同様である。
・刑務所は初犯・累犯、短期・長期の組み合わせで、4つのタイプ別に受刑者を受け入れている。
・出所者の更生率は諸外国に対して冠たるものがある。
・その理由には前科者に過酷な「世間」と、更生を支援する「保護司」の組み合わせが機能してきたからである。
・しかし、近年は世間の匿名化が進み、保護司も高齢化しているので、従来通りにはいかないだろう。
・殺人の半分が家庭内で起きているから、被害者家族=加害者でもある。この場合、当然、犯罪被害者給付金は支払われない。ケンカ殺人の場合も同様である。
著者の語り口はときに毒舌すれすれで、犯罪者に対して容赦ない評価を下していますが、実際のところその立場は穏健なものだと思います。たぶん「人権派弁護士」が、裁判所・検察の不透明な厳罰化を批判したり、精神異常者の「危険性」を否定したり、犯罪者の更生可能性を尊重したりするよりは、ある種のひとたちには抗しがたい説得力があるんじゃないでしょうか。

日本の殺人 (ちくま新書)

日本の殺人 (ちくま新書)