アンナ・カレーニナの原則

うちの妻子は『マダガスカル』という映画が大好きで、先日公開されたパート2にもいそいそと二人で映画館に見に行きました。
パート1のDVDももちろん繰り返しみています。
この映画はマンハッタンの動物園で何不自由なく暮らしていたライオン、シマウマ、カバ、キリンの4頭がひょんなことから野生の王国マダガスカルに行く羽目になってしまうという物語です。
4頭はとても人間的に描かれていますが(なにしろオリジナルで声をあてているのはベン・スティラークリス・ロックです)、もちろん、実際には牛や馬のようには人間と一緒に生活できるわけではありません。
この理由を説明したのがアンナ・カレーニナの原則です。
トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』は「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」という有名な一節で始まります。
進化生物学者ジャレド・ダイアモンドはこの一節をもじって、なぜある種の動物は家畜化できたのに、その他の動物は家畜化されなかったのか、という問いを説明しています。ダイアモンドによると、野生の動物が家畜化されるためには、餌、成長速度、繁殖の仕方、攻撃性、パニック性、社会性など6つの条件をクリアしていなければなりません。この結果、家畜化されている動物はどれも似たようなものになり、逆に家畜化されていない動物はそれいずれも個性的ということになります(ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』第9章、草思社)。
例えば『マダガスカル』のライオン・アレックスは「餌」の点で難があります。肉食の動物を飼育するためにはその10倍の量の草食動物を餌として与えねばならず、またその草食動物を飼育するためにその10倍の量の飼料を与える必要があります。これは割の合わない話です。
カバのグロリアも家畜としては「気性」がよくありません。映画では温厚で冷静なキャラクターとして描かれていますが、実際のカバは「ライオンをふくめたアフリカ大陸すべての動物のなかで、毎年、もっとも多くの人を殺してい」ます。
シマウマのマーティも同じ理由で却下されます。馬とロバが家畜になっているのだから、シマウマも家畜になりそうなものです。しかし実際には「シマウマはいったん人に噛みついたら絶対に離さないという不快な習性があり、毎年シマウマに噛みつかれて怪我をする動物監視委員は、トラに噛みつかれる者よりもずっと多い」。
キリンのメルマンはどうでしょうか。草食動物で性格も大人しそうです。しかし、体高は平均5メートル以上、陸上で最も背の高い生き物を家畜化するのは容易ではなかったでしょう。
結局、こうした生き物が動物園にいて、牧場にいないのは珍しい生き物だからであり、珍しいのは家畜化されなかったからで、それは彼・彼女らがそれぞれひと癖もふた癖もあったから、ということになります。

銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

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銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

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